|
名古屋の最高気温36度。 うだるような暑さが続いている。 期待したサーマルウイン ドも吹かず 鏡のような海面。 午後から水泳訓練に切り替える。 こうした場面になると、生徒一人
ひとりの 性格がよく表れ、おもしろい。 やはり非行系の生徒は活発に動き、ひきこもり系はど うしても 消極的だ。
堤防の上から、勢いよく海面目指して飛び込むのは前者のグループ。 ボードの上に立ち上がり、互いに相手を水中に引き落とそうと若い肌をぶつけ合う。 水上騎馬戦の始まりだ。 一方、後者の集団はどうか。 なんと、岸寄りの浅瀬で仰向け
になり、泳ぐでもなくプカリプカリと浮いている。 まるでラッコが昼寝をしているよ うだ。 頭の上に脱いだTシャツを載せ、温泉にでも浸かっているつもりなのか身動きもせず
ジットしている者もいる。 余りの覇気の無さに力が抜ける。 そこで、生徒を4班に分け、往復200メートルほどの競泳をさせることにした。
メンバーの組み合わせが問題になるが、ここは公平にジャンケンで決めさせる。 どこからともなく不満の声が聞こえてくるが、一切無視。
いざ競泳を始めてみると、予想どうり非行系は抜き手も鮮やかに、力強く水を掻く。 迷走し、泳いでいるのか溺れているのか、よくわからないのは消極派に多い。
「ガンバレー、がんばれー」 突然、岸から黄色い声援が飛んだ。目をやると 5〜6歳、保育園の年長組とおぼしき女の子が、手にした浮き輪を盛んに振り回して
いる。 海水浴に来たのか、父親に肩車された3歳位の男の子も同じように叫んでい る。 日傘を差した母親が傍らに寄り添い、とりだした白いハンカチで父親の額の汗を拭
う。 遠い記憶の底にあるような光景。 屈託のない幼子の笑顔がまぶしい。 父親の柔らかな 眼差しが印象的だ。 人は、5歳までの可愛さで一生分の親孝行をしているのだとい
う。 後はオマケだと思えば、欲張ることはない。 それぞれの生徒の記憶の中に、似たような光景はきっとあったに違いない。
右に踏み出す足を、どこでどう踏み間違えたのか左に踏んだ。 それもまた人生だと真 に 開き直る強さがあれば道に迷うこともなかろうに・・・。 なに、迷ったなら迷った
で、出発点に 戻って 歩きだせばよい。 全身から滴り落ちる海水。 例えぶざまでも、息をはずませ泳ぎ切っ た生徒 の背中に向かって、独り言のようにつぶやいた。
|